きみにはひみつ

novel



 痛、と声が聞こえ、リドは慌てて振り返った。スノウが顔を顰めて、手をもう一方の手で支えるようにして手のひらを見ている。
「どうしたの?」
 リドもその手を覗き込み、訊ねた。ばつの悪そうな顔をして、スノウは目の前の垣根を示す。
 垣根には、雑草だろうか、ひとつだけ他とは違う小さな花を咲かせた蔓が伸びている。可愛らしい、小さな花。けれど良く見れば、その蔓には細い棘が生えている。
「綺麗だと思ったら、つい手が伸びてしまって……」
「痛い?」
 リドは目を眇めて問う。そんなには、とスノウは呟きに近い声で返した。
「棘は――刺さってないみたいだ」
 手のひらを直に取り、リドが言う。スノウはほっと息を吐き、肩を下ろした。
「よかった。ありがとう、リド」
 僕には良く見えなくて。言いながらスノウは手を引こうとしたが、リドが離さない。
「リド?」
 やっぱり棘が残っていたのかと、スノウが首を傾げる。リドは曖昧な笑みを浮かべ、ううん、と首を振った。
「何でもないよ。もう一回、確かめていただけ」
「そう?」
 スノウは改めて手を引っ込めた。
 リドは困ったなあ。と、その手をさりげなく目で追った。昔より荒れ、日に焼けた手。手のひらは皮も硬くなり、変なタコさえ出来ている。けれどその手に、リドは不思議なほど、愛しさを感じた。


 じっと眺めていたら、なんだかそこにキスしたくなった。だなんて。


 スノウにはとても言えない。リドは深々と溜息を吐いた。


end

2006.09.15


novel


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