恋人について

novel



 ハッピーバースデイ、なんて言って抱き締められることが気持ちいいと思うのは久しぶりのことだった。
 幼馴染と過ごす誕生日が、久しぶりだった。




   

恋人について






 きっかり12時になるなり、キラが「アスラン」と目を輝かせて名を呼んだ。アスランが何だ、と反応する前に、腕の中に彼を収める。背の高さは負けるのに腕の中に収まるその細さに、いつでもキラははっとした。――今も。
「キラ?」
「誕生日、おめでとうアスラン」
 ぎゅう、と力をこめて抱き締めて、キラは言った。耳元に落とされた響きにアスランはくすぐったがって、少し掠れた声でありがとう、と返した。
「漸く同い年」
「そんなに離れてないだろう?」
「でも、こうやってふたりでいるのは久しぶりだよ」
 誕生日に、とキラが続けると、アスランは「そうだな」と相槌を打った。
 久しぶり。
「祝えて嬉しいんだ」
「キラ?」
「ずっと待ってた。アスランの誕生日に何かしてあげたくても、アスランが目の前にいなくて、どうしたらいいのか分からなくて。でも、でも今は違うから、」
 だから嬉しい、とキラは言う。何度でも繰り返したい気持ち。おめでとう、と。
「これからはずっと祝ってくれるんだろう?」
 アスランが、おずおずとキラの背に手を回して言った。
「うん」
 キラが頷く。祝うよ、祝いたいよ。歌うように、泣きそうに応える。
「嬉しいんだ、アスランがここにいることが」
 そばにいることが。
「俺も嬉しいよ、キラの傍にいることが」
 泣くなとアスランは言わなかった。けれどキラは泣いた顔を、今にも泣きそうな顔をアスランに見られないように、彼の肩に顔を埋めた。
「今日はアスランの言うことなんだって聞くから。だからわがまま言ってね」
 アスランは困ったように、「何だか寝るのが勿体無いな」と呟いて、キラの頬にキスをした。


end

2004/10/28


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