彼的バッドエンディング

novel



 珍しく呼び出されたかと思えば、親友は自棄酒の最中だった。




   

彼的バットエンディング






 我らが隊長――今となっては元隊長であるが――アスラン・ザラに恋人ができたという。つい、先日のことだ。まあそれも、もともとそういう関係であったのかなかったのか曖昧だったところがはっきりした程度にしか、ディアッカには認識はなかった。
 それでもそのことをディアッカが聞き、初めに思ったのはその恋人というのが親友、つまりイザークではなくて残念だったな、とのことだった。
 多少どころではなく素直ではないけれど、彼がとてもアスランのことを想っていることをディアッカは誰よりもよく知っていた。恐らく一番気づいていなかったのはアスラン当人だろうけれども、そのやり取りを見るのも、はた迷惑なと思いながら実は好きだったのだと、そのとき気づいた。
 彼は荒れるだろう、とディアッカは思った。激昂したときのイザークの手のつけられなさもよく知っていたから、ディアッカは覚悟さえ決めていた。
 しかし予想に反して、一週間ほど穏やかに時は経った。顔を合わせても無表情で、いつも通り淡々と仕事を進めていた。拍子抜け、というとおかしいが、首を傾げたものだ。
 そして今日、話があると呼び出され、訪ねてみればイザークにグラスをつかまされ、どばどばと酒を注がれた。
「自棄酒?」
 無色の液体が、グラスの中で揺れる。手酌で注ぐイザークを横目に、ディアッカは手持ち無沙汰にをれを眺めた。
「違う」
 イザークはあっさりと否定し、注ぎ終えたビンをとん、とテーブルに置いた。そしてそのままディアッカのことなど気にせずグラスを口に運ぶ。珍しいと、またディアッカは思いながらなんとはなくその口元に運ばれるグラスに自分のグラスを合わせた。ガラス特有の高い音に、イザークの目が細まる。
「酔えるものなら自棄酒をしてみるのもいいかもしれないが」
「ってことはやっぱり自棄酒なんじゃない?」
「自棄になってないからな、自棄酒にはならない」
 一口でグラスの半分ほどを明け、イザークはくっと喉の奥で笑った。「自棄になる理由がない」
 へえ、とディアッカは相槌を打ち、グラスを傾ける。「アスランのことは?」
「……一週間、考えてみたんだが」
 イザークはもう一度グラスを呷り、空にした。
「別段俺の状況が変わったわけではないだろう? 奴に対して」
「どーゆう意味?」
「別に振られたわけじゃない」
 ふむ、ディアッカは考えてみる。「恋人ができたってことは、望みが絶たれたとは考えないわけ?」
「関係ない」
 イザークは鼻で笑った。
「俺が何かしらの行動を起こして、それに対して奴が拒んだわけじゃない。恋人ができたからといって、俺に奴をあきらめる理由はひとつもない」
「……成る程」
 要は未練足らしくもまだアスランを諦める気はないという宣言なのだろうが、どうにもイザークが言うともっともらしく聞こえた。少なくとも、ディアッカには。
 イザークに、諦めるというネガティブな想像をした自分が間違っていたのだと、ディアッカはようやっと気づく。気づいて、笑う。
「あれだけ嫌いっつってたのにねえ、」
「それは事実だ」
「それでも惚れてるって?」
「……ああ」
 なんて矛盾だ、ディアッカは笑う。笑った先で、グラスに入った液体が揺れた。
 彼にとってのエンドタイトルは、まだ随分と先らしい。


end

2004/12/18


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